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第8話 爛れた週末

last update publish date: 2026-04-01 16:10:00

翌日。体のだるさを引きずりながら、僕は目が覚めた。窓からは、相変わらず暖かな日差しが差し込んでいる。

ふと横を見ると、相沢さんがかすかな寝息を立てている。

(……きれいだよな)

彼の寝顔を見ながら、僕はそんな事を思った。

穏やかな寝顔を見ていると、昨夜の激しさが嘘のようだ。

僕は、何の気なしに彼の髪をなでる。さらりとした質感がとても心地よくて、ずっと触っていたくなる。

「ん……よしはる、さん……?」

ぽやっとした顔で、相沢さんがつぶやく。

「あ、おはよう。ごめん、起こしちゃった?」

邪魔をしてしまったと思い、僕はすぐに謝罪した。

「ううん。もう少ししたら、起きようと思ってたから」

相沢さんはそう言って、ふぁ……とあくびをする。

「そっか、じゃあ……」

と、僕がベッドから出ようとした時だった。

「えー? まだいいじゃん」

相沢さんに、ベッドの中に引きずり込まれてしまった。

「ち、ちょっと……相沢さん!」

彼の腕から逃れようと、僕は必死にもがいた。

「暴れるなって。気·持·ち·い·い·事·、しよ?」

そう言って、彼は僕に口づける。

(……ずるいって。キスされたら、スイッチ入っちゃうよ)

そんな事を考えながら、僕は彼を受け入れていた。

「ふ……ぁ……んぅ……」

優しいキスに、自然と吐息が漏れる。

舌を絡め、歯をなぞられ、甘い刺激が僕の体を熱くさせる。

ベッドの中で、互いのぬくもりを確認する。興奮しているのか、彼の肌も火照っている。

「ん゛っ!?」

いきなり、相沢さんに腰を引き寄せられた。今までよりも深いキスに、僕はくぐもった声を上げる。

緩く勃ち上がっていた僕自身が、相沢さん自身と擦れ合い、しびれるような快感を生む。びくびくと震え、先端が彼の腹に当たる。それがまた、気持ちよかった。

「ふふ……佳晴さん、腰動いてる。そんなに気持ちいい?」

唇を離した相沢さんが、妖艶な笑みを浮かべてたずねる。

「うん……気持ち、いい」

熱に浮かされたような僕は、素直にうなずいた。

「素直だね。普段から、今みたいに素直ならいいんだけど……。ま、いいや。いい子には、ご褒美あげないとね」

言って、相沢さんが軽くキスをする。

「ぅあ……ふぅ……ん」

甘く喘ぎながら、僕は彼の唇を貪る。

「……ふ、積極的な佳晴さん、かわいい。壊したくなるけど、今日は優しく抱いてあげる」

相沢さんは、僕から唇を離して、低く甘い声で告げた。つーっと、僕の尻の割れ目をなで上げる。

「ひぅっ……!」

びくりと体を震わせて、僕は甲高い声を上げた。

「いーっぱい、気持ちよくしてあげるね」

相沢さんはねっとりと告げて、僕の尻や胸はもちろん、腹や太ももの内側、鼠径部までもさわさわとなで回す。

「はぁ……ん……ぁ……くぅ……っ……んぁ……」

与えられる甘い快楽に、僕自身が反り勃ちびくびくと震えてしまう。

(こんなの……おかしくなる……!)

緩く甘い刺激に、頭の中が溶けてしまいそうだ。

「あ……あいざわ、さん……ほし、い……」

喘ぎながら伝えると、

「んー? 何が欲しいの?」

と、彼は意地悪くたずねて、僕の窄まりをふにふにと触る。

「んぁ……あ、あい……ざわ、さんの……」

その先の言葉が、のどにつかえて出てこない。

「俺の?」

言いながら、彼は窄まりに指を挿れた。

「ひんっ!」

心の準備ができていなかった僕は、反射的に声を上げる。

「俺の、何? 指でいいの?」

のどの奥で笑いながら、相沢さんがたずねる。

「ふっ……ん……ちが……あ゛ぁ……!」

彼の言葉を否定しようとするものの、自然に出る喘ぎ声に邪魔をされる。

「ふふ……そっか、佳晴さんが欲しかったのは、俺の指なんだね? 美味しそうに咥えちゃって」

煽るように言って、相沢さんは指の抽挿を速める。

「あ゛ぁ……や、ちが……う! 指、じゃ……なくてぇ……ぅあ゛っ……!」

彼の指の動きと感触に、僕の声が止まらない。

「違うの? こんなに、きゅうきゅう締めつけてるのに?」

妖艶にたずね、相沢さんは指を動かし続けている。

「気持ち、いいけど……んぁ……あいざわさん、の……こ·れ·……ほしい」

お願いと、僕は相沢さん自身に触れた。

「――っ! ほんっとに……俺を欲情させるの、上手いよな。挿れてあげるから、自分で広げて」

僕の秘部から指を抜いた相沢さんの瞳が、獰猛な獣のそれのようにギラリと光る。妖艶な笑みから、余裕そうな部分が削ぎ落とされた気がした。

その言葉に、僕は素直に従った。仰向けになり、窄まりを広げる。

「挿れるよ」

そう言うと、相沢さんは、僕の中にゆっくりと自身を沈めていく。

「あ゛ぁ……! あ、ぁ、くぅ……ふぅ、ん……はぁ」

指よりも太く逞しい彼自身を感じて、先ほどよりも高く大きな声が出てしまう。

「や、べ……気持ちいい……。起き抜けだから、か……?」

彼は、呻くようにつぶやいて、腰を動かす。

ゆっくりとした抽挿に、今まで感じた事のない快感の波が押し寄せる。彼を求めて、腰が勝手に動いてしまう。

「うあ゛ぁぁ……ふぅ……ん゛っ……ぐ……」

「腰、止まんないね? 気持ちいい?」

相沢さんにたずねられて、僕は喘ぎながらうなずいた。

「あ゛っ……あいざわ、さん……もっとぉ……んぁ……奥……突い、て……」

緩い刺激に耐えかねて、僕は淫らにねだってしまった。

「おねだり、上手くなったね。でも、だーめ。佳晴さん、明日、仕事でしょ? 仕事の前日の激しいセックスは、NGじゃなかったっけ?」

相沢さんは、緩い抽挿を繰り返しながら、確認するように言った。

確かに、次の日に差し支えるほどの激しいセックスは、遠慮したい。でも、激しく突いて壊してほしいと思ってしまうくらい、彼から与えられる快楽は、僕の思考を溶かしていた。けれど、彼の動きは変わらなくて、僕は無意識に彼自身を締めつける。

「くっ……! そんなに……締めつけんなって。激しくしたら、辛いのはあんただよ? 今日は、これで我慢して。次の土曜日に、嫌ってほど犯してあげる、から!」

言いながら、相沢さんは、僕の最奥まで自身を挿れてぐりぐりと押しつける。

「う、あ゛……あぁ……ふか、い……! あ、あぁ……あ゛ぁぁあぁ――っ!」

それがとても気持ちよくて、抉られたまま僕は欲望を吐き出した。

「……うっ!」

直後、相沢さんも僕の中で果てる。

僕の中から彼が引き抜かれる感覚に、名残惜しさを感じてしまう。もっと欲しいと思う反面、次がある事がうれしくもあった。

「さてと。飯、食おうぜ!」

相沢さんは、自身と僕の下半身の処理を済ませると、爽やかな笑顔でそう言った。

先ほどまでの妖艶な雰囲気が、嘘のように消えている。

(本当に、切り替えるのが早いよな)

なんて思いながら、僕はうなずいた。

リビングに向かうと、相沢さんがキッチンに立つ。しばらくすると、ベーコンエッグときつね色のトーストが食卓を彩った。食事をしながら、僕達は他愛もない話で盛り上がる。

食事の後、僕はほんの少しだけ、帰りたくないと思ってしまった。快楽を貪り足りないだけなのか、他に理由があるのか、自分でもよくわからない。けれど、名前すら知らない仄かな感情が、僕の胸の中にはあった。

「……ごちそうさまでした」

僕は、未練を断ち切るようにそう言って、相沢さんの家を出た。

それから、僕は毎週土曜日の夜に篝火を訪れた。相沢さんから、淡黄色のカクテルと彼の自宅の鍵を差し出される。僕達の秘密の合図だ。彼の仕事が終わった後、僕達は夜通し体を重ねる。そんな週末が、数回ほど続いた。

最初の頃は、彼と悦楽を貪り合うのが楽しかったし、気持ちがよかった。けれど、回数を重ねるうちに、彼の事が知りたいと思うようになっていた。でも、勇気がなくて言い出せない自分がいる。

(……臆病だよな、僕)

と、自己嫌悪に陥ることもしばしばだった。

なぜ、こんなにも彼の事が気になるのか。何度も体を重ねて、睦言めいた言葉を紡いで……。それでも、相沢さんが欲しいと思ってしまう。

(もしかして、僕は……相沢さんが好き、なのか?)

そんな事を思い浮かべて、即時に否定した。

あり得ない。彼とは、体だけの関係のはずだ。それ以上の感情なんて、持ち合わせるはずがない。

気の迷いだと言い聞かせてみても、相沢さんを知りたいという欲は消せなかった。

でも、相沢さんに会うと、僕は彼を求めて快楽を貪る獣になってしまう。このままではいけないとわかっていても、教え込まれた気持ちよさに溺れてしまう。

(どうしたいんだ、僕は……)

答えが出ないまま、相沢さんとの情事を重ねて二カ月がすぎた。

いつも通り土曜日の夜に激しく抱かれて、日曜日の昼近くに目が覚める。

(……今日こそ、もう少し踏み込んで聞いてみよう)

起き抜けの頭で、そんな事を考える。

服を着てリビングに向かおうとした時、ベッドサイドに置かれている物が視界に入った。今まで、そんなところ意識したこともなかった。なのに、どうしても気になってしまう。

(何だろう?)

手に取ってみると、それは、猫の肉球をモチーフにしたピアスだった。それも片方だけが、無造作に置かれている。

相沢さんのかとも思ったけれど、今まで彼がこんなにかわいらしいピアスをしていた記憶がない。そもそも、彼が身につけているアクセサリーは、銃弾のモチーフがついたネックレスだけだ。もちろん、僕の持ち物でもない。

それでは、これはいったい誰の物だろう。疑問に思ってしまったら、見なかった事にはできなかった。

僕は、そのピアスを持ってリビングに向かう。

「おはよう。悪い、もう少し待ってて」

と、相沢さんがキッチンから顔を出す。

僕はうなずいて、リビングのいつもの席に座った。ピアスを持つ手は、無意識にテーブルの下に持っていく。ただ、なんとなく気まずさが先に来てしまっていた。

しばらくすると、「お待たせ!」と、相沢さんが料理を運んできた。たまごサンドとオニオングラタンスープだ。

(ポトフといい、今日のスープといい……洋食が好きなのかな?)

ふと、疑問が浮かぶ。ごく普通にたずねることができればいいのだろうけれど、今はそれよりも気になることがある。

「冷める前に食おうぜ」

と、僕の対面に座った彼にうながされた。

僕は曖昧にうなずいて、

「あの……これって、相沢さんの?」

と、持っていたピアスを見せる。

「――っ!? どこで、それを……?」

驚きの表情を浮かべる彼は、低い声でそう言った。感情を出さないようにしているのか、少し怖い。

「あ、えと……ベッドサイドに、あった」

相沢さんの雰囲気に飲まれて、僕はしどろもどろに言葉を紡ぐ。

「あ……そっかー。そんなとこにあったのか。この前、失くしたと思ってたんだよね。ありがとう」

捲し立てるように言うと、相沢さんは僕の手からピアスを引ったくるように取った。

「あ、あぁ、うん……」

彼の勢いに気圧されて、僕は唖然としながらうなずくしかなかった。

(もしかして……恋人の、だったりするのかな……?)

彼の慌てぶりから、そんな推測をする。直接、聞かされたわけではない。けれど、かっこいいし、細やかな気遣いができる人なのだから、恋人がいてもおかしくはない。

「さ、食おうぜ!」

ピアスをズボンのポケットに無造作に入れると、相沢さんは何事もなかったかのように告げた。

不自然に見えたけれど、指摘する勇気もなくて。僕は、うながされるまま、食事に手をつけた。楽しい食事のはずなのに、料理自体はとても美味しいのに、僕の心はすっきりしない。いつもより饒舌な相沢さんが、どこかよそよそしい。やはり、僕以外にも誰か――特定の相手がいるのだろう。

食後のティータイムも、今日ばかりは短時間で切り上げ、僕は相沢さん宅を後にした。

自宅に戻った瞬間、僕は肺の中の重苦しい空気をすべて吐き出すように呼吸する。胸がざわざわとして落ち着かない。あのピアスが、本当は誰の物なのか。相沢さんがあんなに慌てていたのは、どうしてなのか。僕の心が晴れない原因は、何なのか。疑問ばかりが、頭の中を巡っている。

『そういう煮え切らない態度が、気に入らないのよ!』

耳の奥に蘇るあずさの言葉が、胸に深く突き刺さる。彼女と将来について話していた時の光景が、脳裏に浮かぶ。あの時、僕は『結婚』の二文字に躊躇してしまった。

忘れたと思っていたのに。どうして今、思い出してしまったのか。苦い記憶の残滓を振り払うように、下半身に手を伸ばす。相沢さんの声を、仕草を思い返して、自身をしごく。けれど、どうにも乗り切れない。胸の中に広がるのは、彼への切なさだけで。

「情けないよな……」

ため息とともにつぶやいて、僕はベッドの上でうなだれた。

今度こそ、幸せになりたいと思っていたはずなのに。状況は違っていても、またあの時と同じ過ちを犯そうとしている。

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